設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る ④
塔のデザイン 立面と平面
百年記念塔の数学──収斂と拡散
──前回の基部に続いて今回は立面のデザインについてうかかがいます。 設計趣旨では「垂直方向には二次元曲線を用い、永遠に一点に向かって伸びようとする性格を捕らえた」となっているところですが?
「収斂」と「拡散」ということを考えたんです。「収斂」は道民の力が一つに集まっていく。「拡散」は道民の可能性が広がっていく。X軸からもY軸からも、「収斂」と「拡散」が組み込まれているんですよ。
Y軸は垂直方向。高くなるにつれ、徐々に接近しながら無限の高さで交わる道民の可能性を示しています。天空に向かって永遠に伸びていく北海道の未来を表現しようと、グラフ用紙にX軸とY軸を取り、フリーハンドでいろいろと線を描きました。そうした曲線から逆に2次双曲線の方程式を求めていったんです。それがY=±1000/x2 (2乗)という方程式で、これだ! と思いましたね。「歴史は過去に無限、未来に無限」です。
2次元双曲線
百年記念塔のシルエットは
2次元双曲線でできている
僕は子どもの頃から数学が好きなんですよ。高校時代の期末試験で数学の先生が北大の入試問題を出したんです。私は合格点だった。先生が「井口、お前は数学は北大に合格するぞ」といいながら、ご褒美に旺文社が出していた2次関数の参考書と問題集を渡してくれました。そんなこともあって2次元曲線の問題に取り組むのは好きだったんです。
2次双曲線に至るプロセス
──設計趣旨の「永遠に強大な生命力を持ったエネルギー放出の象徴でありたい」をこの方程式で表したのですね。左右の塔が抱き合うかたちになっているのは?
道民が力合わせて前進する協調性を表したものであり、「北」の文字の右のつくりと左のつくりなんです。この塔の平面は「北」の文字が原点になっています。立面には目地ごとに凹凸と、縦のリブが背骨のように設けられていますが、これは歴史年表のようなもので、北海道の歴史の流れを表現したものです。
実施設計による平面詳細図(朱書きは井口先生)
記念塔の平面に北海道の「北」が埋め込まれている
北海道の「北」を造形的に表現する模索
[エスキース]のプロセス
──設計趣旨には「構成される壁面には象徴的に百年の歴史を表現したい」とあるひとつがこの突起なんですね。ほかに壁面にはどんな意趣があるのでしょうか?
こちらを見てください。目地によって区切られた壁面が徐々に広がっていくのがわかりますか? 歴史の流れをシンボリックに示したものですが、等差数列(等差級数)という概念を用いています。同じ数を足し合わせていく数列で、1・3・5・7・9・11・13と、2ずつ増える等差数列を用いているんです。塔の高さは100mで1から始まり2ずつ足していくと、ちょうど10の区画線で偶然に100mになったんです。10年一昔ですね。
北海道百年記念塔の等差数列
──ここにも北海道百年の「100」が仕込まれているんですね。Y軸方向の「収斂」と「拡散」は2次元双曲線であると教えていただきましたが、X軸の「収斂」と「拡散」はどこでしょうか?
北の文字の壁面では、目地の線は平行でありません。わかりますか? これを延長するとすべてこの0点に収斂するんです。
X軸の「収斂」と「拡散」
井口先生による解説
──なるほど。随所に幾何学的な法則が秘められているんですね。
デザインの基本は数学です。自然界のあらゆるものは数字で表せると考えていましたから。2次元関数曲線、拡散と収斂、等差数列(等差級数)……。この塔の場合、すべてのかたちに法則性をもった数字で構成されています。設計する方は理路整然と行えましたが、建築する方は大変だったと思いますよ。
構想段階のメモ。さまざまな計算の跡が伺える
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