Hokkaido Centennial Memorial Tower Fun

設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る ③

塔のデザイン 基部

六角形に包まれた瞑想空間

 
 
■塔のデザインについて伺います。どのような発想からあのかたちになったのでしょうか?

まずこれを読んでください。百年記念塔の設計競技に応募したときの設計趣旨です。
 
 

井口先生による「北海道百年記念塔設計趣旨」
(朱書きは井口先生のもの)

 

 

今回の記念塔設計競技に応募するに当たり、最初に意識したものは、当事者も明記している様に、開発に尽くした人々の苦労に感謝する敬虔な心と未来に向かって輝かしい郷土を建設しようとする意欲を、造形的に表現したいと云う事であった。
 
この様な気持ちを抱く時に、その空間は訪れる人々を勇気づけ、永遠に強大な生命力を持ったエネルギー放出の象徴でありたいと思った。平面的基準格子に菱形、垂直方向には二次元曲線を用い、永遠に一点に向かって伸びようとする性格を捕らえた。
 
更に掘り下げて言うならば、過去と未来を同一空間内に於いて要求されるので、この案の場合建築場所の自然的条件を充分考慮し、有機的に構成する為、全体的には幾つかのブロックにより表現しようと考え、先人の霊を底層部に於いて道産の石により力強く表現し未来に向かって発展しようとする塔部を強い包容力を持って支えている、構成される壁面には象徴的に百年の歴史を表現したいと考えている。
 
壁面には素材として極めて耐久性に富み、又仕上げ肌としても構造的に生命力の長いコルテン鋼を採用した。
 
石と鉄との組み合わせで表現し、水は両者の媒体として存し、静的に池として扱い一体化したものである。
 
以上の考えのもとに表現された塔は意識的には時間及び空間的に、ある距離を持って望むものであり、その意味に於いては全空間を把握できる位置に塔との対話スペース、又森林公園及び、札幌市街地の眺望をも容易ならしめた。
 
この空間は夜間照明塔を設け、また記念的空間として扱うべく計画した。尚、双塔的形態になっているのは協調性を表すものであり、壁面の凹凸は歴史の流れを表現したものである。
 
未来への発展を施工的にも波及させ、構造と意匠を同化、管理機能であるコアー部分により双方を結びつけ一体化した。周囲の堀及び道路は塔との精神的触れ合いを求める探索空間である。

 
 

■「平面的基準格子に菱形、垂直方向には二次元曲線を用い、永遠に一点に向かって伸びようとする性格を捕らえた」ということからあのかたちになったのですね。「平面的基準格子に菱形」とはどういうことでしょうか?

基部をどうまとめるか、についてはずいぶん悩んだんです。これが設計時の平面です。まず一辺が1mの正三角形をモジュールとして集積したものを基本として、池と広場を含めて6角形にしたということです。
 

底部の構想(朱書きは井口先生)

 
ご承知のように6角形は正三角形が6つ組み合わさってできています。6角形は雪の結晶のイメージであります。自然界には6角形が密かに住み着いている──と思いましてね。この塔には正三角形のモジュールがあらゆるところに出てくるんです。図面にもルート3という数字がたくさん出てきます。
 

実施設計による平面詳細図

 

■なるほど、無数の三角形のモジュールに従って設計されていますね。
①が「塔」、②が先 (連載②参照)に伺った慰霊のための施設ですか?

 設計当時は②をMASS(マッス)と呼んでいました。設計趣旨の「先人の霊を底層部に於いて道産の石により力強く表現し」に当たる部分です。道内各地の石を積み上げるもので、伸びゆく北海道の未来を象徴する塔を地底から支えている先人の象徴=慰霊のための造形です。当初設計の通りに実現し、MASSの壁面にアイヌ紋様が描かれていれば、中傷を受けることも無かったんですが……。
 

設計競技に提出された案に基づく模型

  

 
 

■③が「池」ですね。

 そうです。予算がないということで池だけ残して取っ払われました。当初、塔は夜ライトアップされていたんですよ。
 


 

■ライトアップされた姿はさぞかし美しかったでしょうね。いつ頃まで行われていたのですか?

 できてから5年くらいだったと思います。これがライトアップされた写真です。モノクロで分かりにくいですが……。池のところにアヒルの形に似せたライトがあったんです。最初の改修の時に取り外し、今も塔のどこかにしまってあるはずです。
 

 

百年記念塔のライトアップ

 
 

■そうですか。今一度、ライトアップされた姿を蘇らせたいですね。
そしてこの周りが瞑想のための④「回廊」なんですね。

 2メートルくらい掘りこんだプロムナードです。ここを巡りながらMASS(過去)を通して塔(未来)を仰ぎ見てもらいたい、ということです。
 
今は整備されていますが、基部の周りは笹藪──自然のままの姿にしようと思っていました。笹藪にしたのは塔の周辺の環境を元の自然に復元したかったからです。すなわち六角形以外の塔の空間は壊すな! ということです。別途、計画発注された外構工事が完成した姿を見たとき、想定外に裸にされ、ガックリしました。
 
そして基部を含めた全体像を見てもらうために⑤展望台を設けたんです。この展望台の中も展示施設として利用することを考えていました。
 

井口先生作図よる「回廊とMASS」

 

■今は登れませんが、百年記念塔にも展望室がありますね?

 設計の条件として展望室がありましたから設けましたが、ぜんぜん関心がなかったんですよ。記念塔は純粋なモニュメントとして考えていましたから。塔から見るのではく、塔を見てもらおうと。
 
 

 

 

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